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2016年8月18日木曜日

ジョーン・エイキン 作/ ヤン・ピアンコフスキー 絵/ 猪熊葉子 訳(1975)『しずくの首飾り』岩波書店



猪熊葉子さんの訳なので安心して読めました。巻末の「訳者あとがき」もよいです。ジョーン・エイキンという人の生涯、作風についてわかりやすく説明されているだけでなく、ファンタジーの持つ性質についても触れられていて、勉強になりました。また、ヤン・ピアンコフスキーさんの挿絵もすてきです。

生涯について説明されたところでは、ジョーン・エイキンの父親がアメリカ人の詩人、コンラッド・エイキンだと知りました。コンラッド・エイキン(エイケン、と書いているページもあり)はピューリツァー賞をとっています。


作風について、ジョーン・エイキンの作品を二つの系列に分けて猪熊さんは説明されています。

 一つは『ウィロビー・チェースのおおかみ』(1962)にはじまる長編小説の作品たち。そこでジョーン・エイキンは「イギリスの歴史のなかに、空想の一時代を創り出し、そのなかに奇想天外な冒険物語を進行させるという、歴史ファンタジーともいうべき独特の方法(p148)」を使っているそうです。未読なのですが、これはおもしろそうです。
 もう一つは、子供や甥や姪たちが幼いころに語りきかせた短編小説です。この『しずくの首飾り』という本も八つの作品が収録された短編集です。

ファンタジーの持つ性質について猪熊さんは次のように書かれています。

 すでに二十世紀のファンタジーの古典となった『ホビットの冒険』の著者トールキンは、現実の世界には決して起こりえない「驚異」を実現するのが、ファンタジーというものであり、したがってその本質は「魔法」であるといっていますが、エイキンの短編作品の多くは、この定義にぴたりとかなう「驚異」にみちた「魔法」の物語です。
 第二次大戦後のイギリス児童文学の特徴のひとつとして、現実性が濃厚になっていったことがあげられます。そして、本来は、現実を遠く離れた「第二の世界」に、「驚異」を実現するはずのファンタジーの世界にも、現実の風が容赦なく吹きこみ、その魔力をいちじるしく弱めてしまうという現象が見出されるようになりました。しかし、エイキンは、あいかわらず、その豊かな空想力を発揮して、驚くべき魔法の物語をつぎつぎに作り出しては子どもたちを楽しませているのです。その意味でエイキンは非常に貴重な本格的ファンタジーの作家であると申せましょう(p149-150)。

なるほど、と思いました。「あとがき」に書かれている通り、確かにこの『しずくの首飾り』に収録されたお話は「現実の世界では決して起こりえない」ことが次々と起こり、それらを可能にする「魔法」がたくさん出てきます。そして、読み終わった後に、収録された八つの短編を見返してみると、すごくバランスのよい短編集だな、と思いました。

詳しく書くとネタバレになるのですが、八つの短いお話のなかには、精霊がくれたお守りによって少女が魔法を使うお話や、バスが空へと飛んでいくお話。本のなかから妖精や人魚たちが出てくるお話や、飼い猫がとっても大きくなるお話があります。そして、もちろん、鳥や魚、イルカやネズミが人の言葉を話しますし、南の暑い国や北の寒い国が出てきます。私は知らなかったのですが、「三人の旅人たち」という作品は教科書にも載っていたそうです。

短編小説という性質上、あっという間に読み終えてしまうのですが、思い返してみると、たくさんの魔法がちりばめられていて「こんなことが起こるよ。あんなことも起こるよ。」と、いろんな方向へ空想の世界が広がっていました。そのように、違った空想の世界を見せてくれる八つの短編がバランスよく収録されているので、読む人それぞれにお気に入りの作品が見つかるのではないかと思います。

私は「パン屋のネコ」というお話が気に入りました。いつか二人の子供たちにも読み聞かせてあげたいし、すべての漢字にルビがふってあるので自分たちで読める年齢になったら渡してあげたいです。子供たちもそれぞれに自分のお気に入りのお話を見つけることでしょう。


次の読書メモ
『ウィロビー・チェースのおおかみ』や『ささやきの山』といったジョーン・エイキンの長編小説。
コンラッド・エイキンの作品。ただし日本語ではなさそうですね。

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