ページ

2019年2月10日日曜日

田中芳樹 ラインの虜囚 



  ラインの虜囚 (講談社文庫) [ 田中 芳樹 ] 

 だいぶ前に買っていた『ラインの虜囚』を読了。

 田中芳樹さんの作品は、子どもの頃、『創竜伝』に手を出したが(CLAMPが挿絵のやつ。CLAMPも当時流行っていた。世代がわかる話です)、ハマらずに読むのをやめた記憶がある。とにかく主人公の名前がいやだった。三男の名前が終(おわる)とか四男の名が余(あまる)とか真っ先に抵抗を感じたのだ。
 『銀河英雄伝説』は楽しんだ。ヤン·ウェンリー提督が好きだった。話の結末は知らないか忘れてしまったので、いつか手を出してみたい。数年前のアニメでは『アルスラーン戦記』も楽しんだ。ヤシャシーン!

 さて、そんな風な特に田中芳樹ファンでもない私がこの本を購入したのは、ひとえに「鶴田謙二さん」が挿絵を担当していたからだ。もうそれだけで即購入だった。

 物語にあまり複雑なところはなく、文字数も少ないので、さっさとストーリーは進んでいく。カナダからフランスにやってきた、健全な魅力をもつ少女が負った使命を、おじさんたち三人が助太刀するというのが大筋だ。おじさんたちの大人の知恵と思考、大人の振る舞い。けどちょっと少女にはタジタジするところもある。というのがおもしろいし、読んでいて不愉快なところがなくて安心した。諸手を挙げて小学校中学年くらいにオススメできる本だ。
  
 私ごとだが、昨今「小説家になろう」に投稿されているファンタジーもの(ジャンルには詳しくないが、異世界もの、なりあがりもの、やりなおしもの、ハーレムがあるとかないとか云々)を乱読していた。そこで感じる「なんだかなー」といった感じ。ちょっと白けるというか、気味が悪いとさえ思う感じ。言い換えると「男性に対するご都合主義的なところ」にいささか食傷気味だったので、『ラインの虜囚』が持つ登場人物たちの思考の健全さと、主人公以外の複数の登場人物たちにも重層的な魅力がある、というのは、小説としてはしごく真っ当で王道なものですが、ネット小説のやり方に浸っていた私には新鮮に感じた。

 何よりやはり、鶴田謙二さんの絵はいいよね。おじさんたち三人と主人公の少女が初めて卓を囲んで話し合うシーンの絵。一発でそれぞれのおじさんたちの「その時の気持ち」と「それぞれの性格」がわかる気がした。

 馬に乗って、少女がパリを出て旅立つシーンの絵は、異時同図法というのかな(絵巻物でよく見るやつ。一つの絵に主人公が複数いて時間の経過を表している)。それを見たときは、その手法がどうこうというよりも、「ここ(このシーン)を挿絵にするのかー!」という驚きがあった。映画ならば必ずあるようなシーンかもしれない。主人公たち仲間が旅立つ時に彼らの目の前に広がる大地を写すシーンとか。例えば、ロードオブザリングの映画では、峻険な峰を旅する仲間を空から俯瞰する写し方が何度かあった気がする。そんなシーンを絵で描いた感じがした。そういう場面の役者の表情には、見知らぬ異国を歩く恐れや旅に対する不安、だけどやるんだ!という決意や意思が表れている気がする。それを鶴田謙二さんは1ページで表現した、という印象を持った。もっと絵にしやすい場面(例えば、大乱闘シーンや火が燃え盛る場面とか)がありそうなのに、数少ない挿絵ページにこの場面を選ぶ感じ。挿絵が出てきた時にすごく刺激的だった。やっぱ鶴田謙二はいいよ。ちょくちょく絵を見たくなる。
 
 というわけで、鶴謙ファンなら既にお持ちであろう『ラインの虜囚』。本棚に置いておきたい本だ。、そのうち子どもたちが手に取ってくれたらよいなと思う。


 内輪話になるが、この本を読み終えた私が「子どもたちにもすすめられるよい話だったよ」と妻に伝えると、「どういうお話なの?」という会話になった。その時に発覚したのだが、妻はずっと『ラインの虜囚』ことを、『LINEの虜囚』だと思っていたそうだ。私にしては珍しくSNSのことについての小説を読んでいるのかな、と思って見ていたそうだ。それを聞いて思わず「LINEじゃなくてライン川のラインや!」とツッコミをいれてしまった。なんだろう。表紙の絵はオンラインゲームを表したものだと思っていたのだろうか。言われてびっくりの話だったし、思わず笑ってしまった。


0 件のコメント:

コメントを投稿